足関節屈伸運動と腓骨外果の回旋 -肉眼解剖と B モード超音波画像観察-

第10回 日本柔道整復接骨医学会(11月24・25日開催)にて報告したものです。(学会誌に投稿中・図表は割愛)

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著者:  山下 藤夫1) 平野 善敏2) 白石 洋介3)4) 杉浦 康夫3) 米田 忠正1) 米田 實1)
所属: 1) 米田病院 2) 米田柔整専門学校 3) 名大医機能形態学講座機能組織学分野 4) 白石接骨院
キーワード: 足関節、運動学、腓骨、ヒト肉眼解剖、B モード超音波画像


【はじめに】

 足関節運動時の外果部(腓骨)の回旋に対する解剖学的運動学的解明は、本関節の機能を知る上で重要である。足関節屈伸運動には、腓骨の回旋が伴うとされている1)2)3)。しかし、足関節屈曲時に外旋、伸展時に内旋、あるいは屈曲時に内旋、伸展時に外旋するとまったく逆のことが記載されている。
 名古屋大学医学部人体解剖教育用固定遣体において足関節屈伸運動に伴う腓骨外果の回旋を肉眼解剖学的に観察し、加えて、生体において B モード超音波画像(以下 BUS )を用いて足関節屈伸運動時の遠位脛腓間の状態を観察し、画像解析を試みた。その結果、両観察において、腓骨外果部は足関節屈曲時に内旋、伸展時に外旋していることが確認された。
【材料と方法】

 解剖手順;名古屋大学医学部人体解剖教育用固定遺体5体(男性4名、女性1名、年齢69〜88歳、平均年齢77.0±7.69歳)10肢を肉眼解剖学的に剖出した。剥皮後、下腿および足部筋肉群を起始部や停止部で剥離し、足関節を構成する骨と靱帯のみとし、膝関節を残し大腿骨下1/3で切断した後、足関節を他動的に屈伸運動させ、腓骨の回旋を観察した。その際、腓骨外果の動きを明確にするため、遠位前脛腓靭帯にメスで 5mm 程度の切れ込みを入れた。
 5体中4体8肢は、距腿関節部の支持軟部組織をすべて切離し、同様に観察した。5体中1体2肢において、距腿関節部の副靭帯および関節包を温存した状態と、関節包を切開、外側副靭帯を切断した状態を比較した。右側で、外側副靭帯を全て残した状態から後距腓靭帯、踵腓靭帯、前距腓靭帯の順にメスで切断し、左側で、逆に前方の靱帯から順に切断した。各々の靱帯を切断した状態で足関節の屈曲・伸展運動を他の4体8肢同様に行った。足関節他動屈伸運動は、荷重状態を再現する目的で、切断した大腿骨面を下にして、水平な解剖台上に置き、片手で下腿部を、一方の手で足部を把持し、足部を把持している手により、足底方向から脛骨長軸方向への軸圧を加えつつ行った。把持側の保持力は足関節の屈伸運動において下腿部を安定させる程度で、足関節の屈伸運動時に距骨の内外旋が生じないことを目安とした。
 記録;すべての過程をデジタルビデオカメラ(SONY 社製 Digital Handycam DRC-PC 110)にて記録した。
 BUS 観察;超音波機器(日立メディコATL社製HDI 5000 Sono CT,7.5MHzリニア型プローブ)を用い、足関節に既往のない15名(男性11名、女性4名、年齢21〜30歳、平均年齢24.5±2.59歳)の左足関節15肢を対象に、足関節屈伸時の遠位脛腓間開大の変化を、腓骨外果遠位より3cm近位部を指標にし、足関節前外方より、1肢につき同様に5回、短軸像で観察した。得られた画像上で、脛腓間距離を測定し、表示された数値を計測値とした。5回の平均値を屈曲と伸展における各々の被検者値とし、屈曲時と伸展時の平均値を t-検定した。
【結 果】

 解剖観察において、全ての条件下で足関節屈曲時に腓骨の外旋が観察された。生体における BUS 観察で、足関節屈曲時に脛腓間は狭小、伸展時に開大が認められた。
【考 察】

 腓骨外果部は足関節の安定性に深く寄与しており、屈伸運動における dynamic stabilizer としての役割を担っていることが知られている。それ故に、例えば果部骨折などでは正確な解剖学的整復位が求められ、この点に関して医科における意見は一致している。しかし、足関節屈伸運動に伴う腓骨の回旋の有無や方向については未だ一致した見解がなく、文献によって全く逆の報告がされている。今回我々は、ヒト固定遺体の足関節を用い肉眼解剖観察を、加えて生体ヒト足関節に BUS 観察を行い、どちらにおいても腓骨が足関節の屈曲で内旋し、伸展で外旋するとことを明らかにした。その動きは、少なくとも解剖観察において外側副靱帯の影響は受けておらず、距骨滑車と腓骨外果部の互いの関節面の形状に依存していた。Kapandji1) は、腓骨は足関節屈曲時に外旋し、伸展時には内旋しており、その動きは距骨滑車の形態に依存していると述べている。一方、Kelikian2) は、屈曲時に内旋、伸展時に外旋し、その影響は外側副靭帯の緊張によると記載している。我々の観察では、回旋方向に関しては Kelikian が述べている方向と同様であったが、回旋運動においては外側副靱帯の緊張によるものではなく、Kapandji が述べているように、距骨と腓骨の関節形状に依存しているものと思われた。我々は、足関節屈伸運動と腓骨の回旋は、主に距骨関節面の腓骨との接触面と腓骨の距骨との関節面の形状に依存するものであり、足関節伸展時には距骨滑車前外方が腓骨外果関節面を押し広げられることで腓骨の外旋運動が行われ、一方、屈曲時には押し広げられた腓骨外果が元に戻るため内旋運動が起こるのではと推察している。骨折に限らず、様々な足関節損傷後の機能回復や改善において、腓骨回旋の生理的運動範囲が獲得されたか否かについても考慮する必要がある。
【結 語】

・足関節屈伸運動に伴う腓骨(外果)の回旋について、肉眼解剖観察、および生体でのBモード超音波画像観察を行った。
・肉眼解剖観察において、屈曲時に内旋、伸展時に外旋していた。
・Bモード超音波画像観察において、遠位脛腓間は屈曲時に狭小、伸展時に開大した。
・以上の観察から、生体における足関節屈伸運動では、腓骨(外果)の回旋を伴っており、屈曲時に内旋、伸展時に外旋することが明らかにされた。
・足関節運動時の腓骨(外果)回旋に、足関節外側副靱帯は影響せず、距骨関節面形状の関与が示唆された。

【参考文献】

1) I.A.Kapndji: 荻島秀男監訳; カパンディ関節の生理学、医歯薬出版、東京、166-167,1996
2) Kelikian.H: Disorders of the Ankle, W.B.Saunders Company, Philadelphia,40-45,1 985
3) J.Castaing et al: 井原秀俊ほか訳; 図説関節・運動器の機能解剖、協同医書出版社、東京、130-163、1990
4) 水野耕作: 足関節、関節外科、Vol.9,153-166、1990
5) 森 於莵: 筋学・下肢の筋、分担解剖学、(共著) 第11版第15刷、金原出版、東京、399-427、1995


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